ガバナンスツールとしての死後の世界

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先日、「地獄遊覧」というタイトルの珍妙な本を買った。時折、珍妙な本を買う癖がある。まだちゃんと読んでいないが、古今東西の人が死後の世界をどう思っているかを網羅的に紹介した本である。
積ん読状態の本を説明するのは難しいので、出版社(ナショナルジオグラフィック)の紹介文を引用しておく。

善男善女(あるいは善男のみ)が迎えられる至上の楽園、永遠の責め苦を受ける地獄、そのどちらでもない虚無の世界。キリスト教を中心とした西洋はもちろん、ユダヤ教やイスラム教、インドのヒンドゥー教、北欧神話、メソアメリカの神話、インドから東アジアの仏教、道教などを題材に、世界中の「天国と地獄」をめぐります。

本書ではこれら人類最大の空想を、著者が所有する希少な美術品を含む古今東西の美術や古物を豊富に掲載し、博覧強記の著者がユーモアを交えて語ります。

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これを読まずして何を読んだらよいのかという内容である。ナショジオの出版物はこういうのがあるからおもしろい。
実を言うと、死後の世界を信じて生きているので、死後の世界に興味がある。「突然何を言い出すんだ。スピリチュアルか」と思われるかもしれないが、そうではない。

スピリチュアル的なものは断固として否定する。科学的に存在が証明されていないものが存在するなんてありえないし、人は運命づけられて生きていない。偶然は物理法則に則った因果関係があり、その紐解きが難しいか、物理法則が今の科学では説明しきれないから「偶然」という言葉を使うのである。

人生に迷うのは良い。だが、救いの手を差し伸べるのは、自分自身である。もっと具体的に言うと、自身の知識であり、知恵であり、理性である。断じてスピリチュアルなどという何の根拠もない外的要因ではない。

自身のスタンスとして、非科学的なものに救いを求めていないということを明言する。

さて、死後の世界があるかどうかだが、あるかないかで言えばない。事実として、死後の世界の存在を指し示す確たる証拠がないのだから、ないと言わざるを得ない。死後の世界を見てきたという人がいるが、「幻覚じゃないの?」「夢じゃないの?」を否定できるだけの証拠がない。残念ながら死後の世界などない。

冒頭と言ってることが違うが、「明確にある」と「あると信じる」はまったく別である。「信じる」とは言い換えると、思い込みである。存在しない死後の世界をあると思い込んで生きている、と言った方がわかりやすい。

ないものをあると思い込んだ方が生きるのが楽なことがある。「葬送のフリーレン」(第7話)でも似たようなことを言っていた。「天国があると思った方が都合がいい」のだ。誰かが死んだ時に「あの人は天国で悠々自適に暮らしている」「自分もいつかそこへ行く」と考えた方が悲しみや寂しさが少し減る。

死後の世界というものがあった方が気持ちが軽くなる。先人の知恵である。

本当にそうだろうか?

確かに悲しみを和らげるという側面もあるかもしれない。だが、人はもっと狡猾なはずだ。死後の世界などというクリエイティブな発想を凡人がしたとは思えない。何か偉い人が民衆をコントロールするために生み出したのではないか。

死に直面した人がいるとする。「死後の世界」という発想がないと、「どうせ明日死ぬのだから」と傍若無人を働き、人に迷惑もしくは損害を与える可能性がある。しかしながら、悪いことをすると死後、永遠の責苦を受けると思い込んでいれば、死に直面しても理性が動き、静かに死んでいくだろう。

逆に良いことをすると、死後、永遠に安楽に過ごせるとする。そうすると、人は良いことをして生きることになる。

良いこととは、偉い人にとって都合がいいことである。

ある日突然、誰かがエイヤーと言いながら別の誰かを殺傷したら、労働力が減るので偉い人は困る。有価証券報告書の「経営上のリスク」に「従業員同士の殺し合いが始まる可能性がある」などと書く必要が出てきてしまう。

そこでリスク対策のための会議が開かれる。従業員同士が勝手に殺し合いをしないためにはどういう対策をすべきか。リスク対策委員会が設置され、外部からコンサルタントを呼び寄せるのである。

コンサルタントは「死後の世界をでっち上げましょう。良いことをしたら永遠に安楽に暮らせ、悪いことをしたら永久の責苦に遭うんです。実際のところは知りませんけど、そういう風に思い込ませればいいんです」という旨の100スライドくらいのパワポを投影しながら説明する。

偉い人は疑り深いので「発想は悪くないけど、そんなこと言って誰が信じるの。みんな言うこと聞かないから、勝手に殺しあうんだけど。高いお金出してるんだから、もうちょっと現実的なことを言ってよ」などと言うに違いない。

そうするとコンサルタントはさらに200スライドのパワポをスクリーンに投影し、ドヤ顔で発言する。

「いやいや、あなたが言うんじゃないです。お前みたいなボンクラの言うこと誰が真に受けますか。この世界を作ったすごい何かが言ったことにするんです。この世の摂理も、死後の世界もこいつが作ったことにするんです。それをあなたが『いやー、この前、飲みに行った帰りにこの世を作ったとか言うヤツがいてさー、こんなこと言ってたんだよね。そいつ、空飛んでたし、身長は200mくらいあったし、マジで威圧感あったわ。そういえば、悪いことをすると死んだ後に重い物を持って歩かされたり、血の池で変な生き物に銛でつつかれたり、火で焼かれたり、氷付けにされたり、デカい化け物に囓られたりするらしいよ、しかも永遠に』と言えば従業員なんてイチコロです。奴らはバカです」

「あ、なるほど。それ採用」

以後、死後の世界は統治コストを下げるために便利に機能することになる。それが当たり前になったことで、有価証券報告書の「経営上のリスク」は世界情勢の変化とか書いておけばよくなった。

誰かが死に向かった時は「悲しみ」というコストを軽減し、自分が死に向かう時は「理性を保つためのブレーキ」として機能する。死後の世界が実在するかどうかなど、この際どうでもいい。それがあると思い込んでいた方が、個人にとっても、組織にとっても、何かと「都合がいい」のである。

実在しない死後の世界をあると思い込んでいるおかげで、刑務所に入ったことがないどころか、逮捕や起訴すらされていない。まさに品行方正、聖人といっても過言ではない生活を送れている。

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